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最高裁判所第一小法廷 昭和37年(オ)1390号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士定塚道雄、同定塚脩の上告理由第二点第四点について。

原判決はその理由冒頭掲示の当事者間に争のない事実と挙示の証拠によつて認定した原判示一ないし五の事実とを綜合の上、結局上告人先代新井秀一郎は被上告人先代小泉幸吉に対して本件土地の耕作を許容していたことは明らかであり、この耕作関係は通常の小作関係とはその趣を異にするけれども、右秀一郎の所有財産の管理その他についての労力や出費を対価とする一種の賃貸借とみるのが相当であり、幸吉はこの賃借権に基づき本件土地を占有耕作してきたものと認めざるを得ず、秀一郎の死亡に因る上告人の相続、幸吉の死亡に因る被上告人の相続により、上告人は秀一郎の賃貸人としての地位を、被上告人は幸吉の賃借人としての地位をそれぞれ承継したものというべきであつて、従つて右賃貸借関係の消滅したことの主張立証のない本件にあつては、上告人と被上告人間には、なお本件土地についての賃貸借関係が存続するものとせざるを得ない云々と判断していることは、原判文上、明らかである。

しかしながら、思うに、賃貸借とは、賃貸人が或物の使用及び収益をなさしめることを賃借人に約するとともに、賃借人が右使用及び収益の対価として賃金を支払うことを約するに因つて成立する法律関係であることは多言を俟たないところである(民法六〇一条参照)。従つて、地主の所有財産の管理その他についての労力や出費を対価として成立している判示のような耕作関係は賃貸借関係とは認め難く、他の系列の契約関係と解するを相当とする。果して然らば、原判決は賃貸借関係の法律上の性質を見誤つたものというべきであり、この誤つた判断は原判決の主文に影響するところ勿論であるから、本上告理由は理由あるに帰し、原判決は、他の論旨について判断するまでもなく、上叙の点において到底破棄を免れないものといわざるを得ない。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤朔郎 裁判官 長部謹吾)

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